第16回(令和4年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:(該当なし)

論 文 賞:村越 真 会員(静岡大学)、満下健太 会員(早稲田大学)
<論文>
村越 真 ・ 満下健太 ・ 小山真人(2020) 自然災害リスクはハザードマップから適切に読み取れているか? 地図リテラシーの視点からの検討(地図,58巻4号,1-16.通巻232号に掲載)【論説】
<受賞理由>
村越真会員ほかが著者となっている論文「自然災害リスクはハザードマップから適切に読み取れているか?地図リテラシーの視点からの検討(「地図」58巻4号掲載)は、教員養成系大学生に対する調査を通じて地図から災害リスクを読み取る際の傾向を分析することにより、現状のハザードマップが災害リスク把握に必要な地図リテラシーを確保する観点からどのような課題があるかを明らかにしたものである。本研究はハザードマップについてどのようにすればその効用を高めることができるかについて大きな示唆を与えるものであり、その内容は高く評価される。

論文奨励賞:(該当なし)

作品・出版賞:小野寺 淳 会員(茨城大学名誉教授)、平井松午 氏(徳島大学名誉教授)
<作品・出版物>
小野寺 淳 ・ 平井松午編(2021):『国絵図読解事典』.320頁、創元社
<受賞理由>
小野寺 淳・平井松午編『国絵図読解事典』(創元社,2021)は、江戸幕府のもとで作成された国絵図とそれにもとづく日本総図についての総合的な事典である。国絵図研究会会員など40名が分担執筆し、全50項目、図版約400点を含み、B5判318ページの大冊である。全国的な国絵図の伝存状況を主とした既刊の、国絵図研究会編『国絵図の世界』 柏書房,2006)の続編という位置にあり、前書以降の研究成果を反映しつつ、国絵図の利用、読解の多様な可能性を提示する本書の意義は大きい。日本の地図史、国土の歴史を知るための基本参考図書の一角として高く評価できる。

作品・出版賞:山田 誠 会員(京都大学名誉教授)
<作品・出版物>
山田 誠(2021):『戦時改猫図論考 偽装された地形図』.268頁、海青社
<受賞理由>
本書は、戦前期とくに1930年代後半の約7年間にみられた地形図の戦時改描について、真っ向からアプローチし、総観的かつ体系的にその全容の実態解明を試みた意欲作である。これまでも戦時改描図に関しては様々な論究がなされてきたが、本書はこうした既往研究を総点検したうえで、この時期に刊行された日本全国および日本統治下の台湾の5万分1、2万5千分1、1万分1の各図を網羅的に丹念に読図し、改描の実態を詳細に究明した。改描図の図版が本書には極めて多く掲載され、わかりやすい紙面構成も本書の魅力である。また戦時改描図研究での未解明な部分が今後の研究課題として示されるなど、後進の地図学研究においても大きな指針となるなど、本書はその学術的意義も含めて高く評価することができる。

教育普及賞:東野茂樹 氏(東京都葛飾区立水元中学校)
<受賞理由>
東京都葛飾区立水元中学校の主幹教諭である東野茂樹氏は、中学校社会科地理的分野において地図を活用した独創的な授業を展開してきた。とくにハザードマップを用いた防災教育においては、これまでにも日本地図学会定期大会のシンポジウムやフォーラム、例会において貴重な授業実践の報告を複数行うなど日本地図学会への貢献度も極めて高い。その際、東野氏は実際の生徒の指摘や反応を記録した授業動画も用いながら、誤読しやすい地図表現の具体例、指導教員が抱える資質上の問題など、現場教員の視点から地図教育上の諸問題を明らかにしてきた。このほか「NHK for School 10 min.ボックス地理」の出演、「地図情報」誌の執筆、内閣府地方創生推進室、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局主催のRESAS de 地域探究成果発表会での発表など、東野氏の多岐にわたる地図教育の普及活動は、極めて高く評価することができる。

功 労 賞:小倉 眞 会員、 小野沢信輔 会員、 藤崎俊之 会員、 町田宗博 会員、 森本健弘 会員(5名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:日本視覚障害社会科教育研究会
<受賞理由>
全国の視覚特別支援学校(盲学校)の社会科教員の団体「日本視覚障害社会科教育研究会」は、長年にわたり視覚障害児の学習に適した地図帳の点字翻訳に取組み、2008年に『点字版:基本地図帳-世界と日本のいまを知る』を刊行した。この点字版地図帳は、児童・生徒はもとより、大人も含めた視覚障害者にとって欠かせない地図帳として、今も使われ続けている。その後も、視覚障害児を対象とした地図教育の授業研究や教員研修などを継続的に行ってきた。2019年には、弱視の児童・生徒や、学習に様々な課題を抱える子供達を対象に、地名情報等を絞り込み、文字を大きくした『みんなの地図帳~見やすい・使いやすい~』を刊行した。このように、継続的に、全国の視覚特別支援学校が連携して、視覚障害者の地図学習を支援し、教職員が研鑽する取組は、高く評価するものである。

特 別 賞:宮坂和人 氏 筑波大学人文地理学・地誌学・空間情報科学研究グループ
<受賞理由>
筑波大学の地理学教室で、カルトグラファー(地図描き職人)として長年にわたり数多くの地図を描いてきた宮坂和人氏は、ペンとインクのみで、道路や鉄道を引き、農地を作付け品種ごと、市街地を一筆ごとに描きこんできた。宮坂氏の描く地図は、農村景観や街並みをモノクロの学術論文の主題図として描くなかで、地理学の研究成果を読者に伝える重要な役割を担ってきた。今回、宮坂和人氏の定年退職を契機に、宮坂氏制作の主題図を「マップアート作品」として後世に残す『手描き地図職人・宮坂和人マップアート作品集』制作の主題図を「マップアート作品」として後世に残す『手描き地図職人・宮坂和人マップアート作品集』プロジェクトが展開された。費用をクラウドファンディングで募るなど、特定大学関係者を超えた、オープンな取組であった。そして、2020年の出版物刊行に加え、2020年10月からはホームページで一般にも40枚以上の地図が公開されている。『手描き地図職人・宮坂和人マップアート作品集』は、我が国の地理学研究論文のカルトグラフとしての到達点を示しており、それを支える研究グループの在り方も示したものであり、高く評価するものである。

第15回(令和3年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:野々村邦夫 会員((一財)日本地図センター顧問)
<受賞理由>
野々村邦夫会員は、行政、教育・研究、民間において、それぞれの立場から地図および地図学の普及啓発、発展などに、下記のとおり特に顕著な貢献をされてきた。国土地理院においては、測図分野、地理調査分野、地理情報分野における第一線の活動を含め、基本図の整備等に長年従事した。特に、基本図整備の合理化、数値地理情報の開発・実用化、北方 4 島・竹島・尖閣諸島の地図の刊行等を積極的に主導した。環境庁出向中を含め、環境分野における地図の活用についても留意した。教育・研究においては、広島工業大学特任教授、法政大学、明治大学、駒澤大学、首都大学東京の非常勤講師として長年にわたり、地図学の講義等を行った。(一財)日本地図センターでは、研究活動等支援事業、地図地理検定、教員免許状更新講習、地図倶楽部等の事業を発足させ、これらを積極的に展開した。地図の普及啓発に関する活動では、書籍・雑誌・インターネットでの執筆・編集、講演・講習・通信教育、テレビ・ラジオ出演等を長年にわたり多数行った。また、2012年以来岐阜県図書館特別顧問として同図書館の地図関連事業を支援するほか、岐阜県児童生徒地図作品展の審査委員長として審査・講評を行っている。これら多岐に跨がる長年の活動は高く評価される。
 
野村正七地図賞:鈴木純子 名誉会員
<受賞理由>
鈴木純子名誉会員は、地図の歴史・地図学に関する高い学識を有している。それは地図図書館学に裏打ちされたものであって、日本だけではなく、国際的な視野をもったものであり、高く評価される。1997年に気象庁で伊能大図写本43枚を発見し、また2001年にはアメリカ議会図書館の伊能大図の調査を行った中心の一人であり、現在も、伊能忠敬研究会代表をつとめている。日本地図学会(旧日本国際地図学会)では、長年にわたって地図史/地図史料・地図アーカイブ専門部会の主査をつとめており、学会運営にも大きく貢献し、女性の地図学者のさきがけとして活躍していることは高く評価される。

論 文 賞:野上道男 会員
<論文>
野上道男(2019):伊能大図における星測と横切測量・方位測量による導線位置の補正-第4次測量までの例-(地図,57 巻 3 号,1-13.通巻 227 号に掲載)【論説】
<受賞理由>
野上道男会員が著者となっている論文「伊能大図における星測と横切測量・方位測量による導線位置の補正-第4次測量までの例-」(「地図」57 巻 3 号掲載)は、我が国の地図史上良く知られる伊能大図について、星測・横切測量・方正測量が導線位置の補正を通じて精度向上にどう寄与したかについて論じたものである。著者は大図における導線計測の実例を多数検証することにより、方位測量の役割や星測の精度向上の役割などを明快に示した。本研究は、測量成果としての伊能大図における精度の本質について大きな示唆を与えるものであり、その内容は高く評価される。

論文奨励賞:(該当なし)

作品・出版賞:齊藤忠光 会員(元(一財)日本地図センター)
<受賞理由>
齊藤会員は『地図とデータでみる都道府県と市町村の成り立ち』平凡社(2020)を著した。本書は著者が1990年代に「マーケッティングのための GIS 基盤データ「全国の大字町丁目界地図データベース」の企画開発に携わったことを契機に、我が国における現在の行政区画の成立過程に問題意識を持ち、退職後に大学院で本格的に「地域史」研究に取り組み、古代日本の国郡区域から始まる各時代の変遷事例を地図と統計データを分析した修士論文および本学会機関誌「地図」発表論文等を集大成し、いかに現在の日本の行政区画が成立したかの変遷過程を判り易く一般向けにまとめた著述である。本書の特徴は各時代の施策過程で作成された行基図、国絵図、国郡絵図、伊能図、明治期地籍図、大日本帝国全図等の地図が多数紹介・解説され地図専門家にとっても大変有益であり、今後、日本の人口減少等にともなう新しい日本の地方創生を考えるうえで広く国民にとっての参考文献として高く評価できる。

教育普及賞:ICTでシェアする地理教材研究会
<受賞理由>
今般のコロナ禍のなか、全国の地理教員で構成されている全国地理教育研究会(全地研)の有志(約30名)が結成した「ICTでシェアする地理教材研究会」は、オンライン授業で活用することを前提とした地理教材(Google SlideやGoogle Earth creation tool)を作成し、無償で公開する活動を2020年4月から展開している。この活動は、①Googleスライドを用いることで、各授業で必要に応じてカスタマイズが可能、②地理院地図やGoogle Earth、今昔マップなどGISツールへのリンクを多用しているため、生徒が主体的に学べる、③制作者も利用者の声を反映して随時手直し・アップデートが可能、などの特徴を有しており、地図・地理教材の普及において、極めて有意義な活動である。2022年の「地理総合」の必修化に向けて、当該団体の活動により、幅広い地図・地理教材の充実と、全国の地理教員とのネットワーク構築の面で、極めて高い効果が期待される活動である。以上の理由から、日本地図学会賞(教育普及部門)にふさわしいと考えるため、推薦するものである。

功 労 賞:越前欣也 会員、稲葉和雄 会員、木下章 会員、中山裕則 会員 (4名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:近代測量150年記念事業推進会議
<受賞理由>
近代測量150年記念事業推進会議は、1869年に近代測量が始まってから150年の節目を迎えた2019年度に実施された「近代測量150年記念事業」を、地図・測量に関わる各機関と連携し、中心となって進めた。近代的測量・地図作成の150年間の発展を振り返るとともに、未来を描く起点となるよう、新旧の地図や測量機器の展示、フォトコンテスト、新旧の測量スポットを訪問するウォーキングツアーなどさまざまなイベントの企画・開催、特殊切手の発行、小・中学生向けの教材の作成・配布、「測量・地図150年史(仮称)」の編纂などを行った。これらの取り組みを通じて、測量・地図作成の意義や歴史について、広く国民に知らしめた。このことは、地図学の普及・発展に大きく寄与するものであり、高く評価できる。

特 別 賞:長久保赤水顕彰会
<受賞理由>
長久保赤水顕彰会は、茨城県高萩市出身で江戸時代の地理学者、長久保赤水(1717~1801)の功績をについて広く発信している。長久保赤水は、茨城県高萩市出身で、水戸藩の儒学者として藩政への学術的・技術的提言を行うとともに、地理学者として『改正日本輿地路程全図』(1780)、『改正地球万国全図』(1785)を刊行し、国内外で広く活用されている。前者は、国の重要文化財に指定(2020)されている。実測図でないものの、伊能忠敬の『大日本沿海輿地全図』より 30 年以上前に、幕府勅撰の日本図や諸国の国図を基に編集され、経緯度線も初めて描かれた。刊行後も文献や旅人からの情報に基づき改定を重ねたことは、今日のリアルタイム地理空間情報の原型といえる。これらの地図には、日本の北辺や大陸との間にある島嶼が、今日の知見からみても的確に描かれており、地図史としても地政学的にも意義も大きい。このように、長久保赤水の功績とこの地図の科学史的・地政学的な意義とを一般向けに広く普及啓発した活動は、高く評価できる。

第14回(令和2年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:(該当なし)

論 文 賞:小林 茂 会員
<論文>
小林茂・鳴海邦匡(2018):ヨーロッパにおける長久保赤水の日本図の受容過程(地図,56巻4号,1-17.通巻224号に掲載)【論説】
<受賞理由>
小林茂会員が筆頭著者となっている論文「ヨーロッパにおける長久保赤水の日本図の受容過程」(地図56巻4号掲載)は、我が国でも地図を大きく変えた長久保赤水の「改正日本輿地路程全圖」について、ヨーロッパにおける日本図の刊行に与えた影響について論じたものである。著者はティツィングによる研究やこれに依拠したクルーゼンシュテルンの取組に対し綿密な調査や緻密な分析を行い、クルーゼンシュテルンの「日本帝国図」がヨーロッパにおける日本図を近世的なものから近代的なものに転換させたものを明快に示した。本研究は、ヨーロッパにおいて日本図がどう扱われたかについて大きな示唆を与えるものであり、その内容は高く評価される。

論文奨励賞:(該当なし)

作品・出版賞:今和泉隆行 氏(非会員)
<作品>
『「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方』晶文社 (2019/3/14)
<受賞理由>
今和泉隆行氏が著した『「地図感覚」から都市を読み解く――新しい地図の読み方』(晶文社)は、人々が地図から何を読み取ってどのような解釈をしているのかをわかりやすく解説した書籍である。従来の読図解説書が取り上げてこなかった民間地図やWeb 地図などを対象に、多くの人が意識することなく地図から読み取っていたイメージを言語化しており、地図表現からのアプローチで都市の特性を読み解くヒントを具体的に示したことで、従来地図を苦手としていた層、あるいは地図に興味がなかった層にも地図の奥深さを認識させた功績は高く評価できる。

教育普及賞:河合豊明 会員(品川女子学院)
<受賞理由>
河合会員は、広島、東京において中・高校の地理の教壇に立つ傍ら、学校現場においてGIS の活用が求められている中、同氏が所属する関係学会のシンポジウムなどに積極的に参加し発表するとともに、生徒達にも発表させるなどして、成果を即座に授業に取り入れ、実践的な地図教育を実施している。2019年7月のICC 東京大会においては、生徒達に「市町村の活性化」のアイデアを提案させる100 分間の授業をICC 参加会員に公開した。また、ICC 併設地図展に参加した生徒達が引率者の同会員や展示説明員に質問しながら長時間見学している光景が見かけられた。さらに、同氏の生徒が同年11月末開催のG空間EXPO2019 において日頃の成果を積極的に発表するなど、同会員の確実な指導成果がうかがえ、その教育効果は高く評価されるものである。

功 労 賞:太田弘 会員、熊木洋太 会員、久万澤俊夫 会員、栗田光雄 会員、鈴木道信 会員、高橋建 会員、中平寛 会員、風呂信一 会員、藁谷哲也 会員 (9名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
<受賞理由>
産総研地質調査総合センターは、国土の地質学的実態を明らかにするため、さまざまな地質図を作成してきた。地質図は図幅単位で作成され、凡例も図幅単位で異なっており、利用はもっぱら専門家に限られていたが、2006 年には日本全国を統一凡例でまとめた20 万分の1 日本シームレス地質図全国版をWeb で公開することにより、さまざまな情報との重ね合わせや、スマートフォンなどのモバイルデバイスで位置情報に合わせた表示も可能になったことで、より幅広い層に地質図が利用されるようになった。また、2018 年には地質標本館に設置されている日本列島の立体地質図をリニューアルし、日本列島の精密立体模型に地質などに関するさまざまな情報をプロジェクションマッピングにより投影することで、地質と人間社会の関わりをわかりやすく視覚化できるようになった。同センターのこれらの取り組みは地質図を一般の人々にとってより身近なものにしたと同時に、地図技術の発展にも大きく寄与しており、高く評価できる。

特 別 賞:第29回国際地図学会議実行委員会(ICC2019)
<受賞理由>
第29回国際地図学会議及び同第18回総会(ICC2019 東京大会)は、2019年7月15日(月)から同21日(土)にかけて、日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)他で催され、75ヵ国・地域から950名が参加し、150のセッションで延べ750件の論文発表が行われ、併催された地図展には30ヵ国から385の地図が展示され、成功裏に終了した。この大会の開催運営は、日本の地図学を担う研究機関、行政機関、民間会社等から有志で構成された実行委員会が担った。国際地図学会議は、日本では1980年以来2度目、39年ぶりの開催となった。世代交代がすすみ、前回の実施記録は事実上印刷物のみしか残されていないという条件のなかで、本学会会員を中心とする産・官・学のメンバーからなる実行委員会は、国際会議運営の方法・手順をネットワーク・デジタル環境のもとに新たに組み上げ遺漏無く実行し、日本の地図学の実力を世界に示した。その功績は高く評価される。
ICC2019 実行委員会構成員                   
森田喬(委員長)、若林芳樹(事務局長)、有川正俊、伊藤香織、上田秀敏、宇根寛、ト部勝彦、江藤洋一、太田弘、落合康浩、河合豊明、熊木洋太、小荒井衛、小林岳人、齋藤忠光、佐藤潤、鈴木厚志、瀬戸寿一、塚田野野子、西村雄一郎、野尻琢也、久井情在、藤田秀之、古橋大地

第13回(平成31年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:(候補者辞退のため該当なし)

論 文 賞:長岡大輔 会員(琥珀舎・(株)福田水文センター)他
<論文>
長岡大輔・古沢仁・重野聖之・丸谷薫・池田隆司(2017):札幌市の市制開始期における詳細地形と水文環境(地図,55巻3号,1-9.通巻219号に掲載)【論説・添付地図解説】
<受賞理由>
札幌市公文書館で保管されていた「札幌市街之圖(視形線圖)」(1924)をデジタル化し、市制開始期の札幌市の地形を再現するとともに、札幌の開拓当初から人々に親しまれていた湧泉と人々を脅かしていた洪水について、復元した地形を基に評価・検証を行っている。大正時代に作成された、現在とは仕様の異なる、しかし十分に詳細な地形を表した地図を、地形環境変遷の考察に活かす研究であり、高く評価できる。

論文奨励賞:吉田桃子 会員(慶應義塾大学大学院)
<論文>
吉田桃子・石川初(2018):地図を用いた都市空間の批評的な記述方法の提案―現代の江戸切絵図の制作を通して―(地図,56巻4号,18-33,通巻224号に掲載)【論説・添付地図解説】
<受賞理由>
人工環境が高度に発達し複雑化した現代都市を対象に、図形作成ソフト等を用いて江戸切絵図の特徴を分析し、それをモデルとして歩行者の視点から地図化し現代の江戸切絵図を試作する過程を報告した論文である。著者のひとりの吉田桃子会員は、共著者の石川初会員の研究室で地図学の研究手法を学び、日本地図学会2017年定期大会(於 慶應義塾大学)で口頭報告した内容を論文化したものである。歴史的な地図に敬意を表しつつ、現代社会における地図の位置づけや、地図と世界観に関する最新の地図学の研究成果を活かした意欲的な研究姿勢は評価できる。

作品・出版賞:今尾恵介 会員・東京カートグラフィック(株)特別会員・河出書房新社
<受賞理由>
『日本200年地図 伊能図から現代図まで全国130都市の歴史をたどる』を刊行した。全国47都道府県130都市・161地域を、江戸後期は伊能図(大図と中図)、明治以降は国土地理院の地形図(縮尺1:20,000、1:25,000、1:50,000)を原寸で掲載するほか、現在では入手困難な地形図を多数収録し、各図のポイントを監修者が簡潔に解説した地図帳である。今尾会員は、幅広い地域・時代に跨る地図を収集・調査し、それらの意義を多くの人々に的確に伝えてきた。東京カートグラフィック(株)特別会員は、各種の地図データを提供するとともに、その提供方法について数々の創意工夫を行ってきた。河出書房新社は、各分野の特徴的な著作を一般の流行に囚われず刊行してきた。これらの実績を有する3社が、日本の国土の歴史を客観的に著した正確な地図類を同一基準で選択し系統的に紹介した意義は高く評価できる。

作品・出版賞:若林芳樹 会員(首都大学東京)
<受賞理由>
若林会員は、『地図の進化論 地理空間情報と人間の未来』創元社(2018)を著した。行動地理学・認知地図分野の研究者である若林会員は、地図情報のデジタル化によって、印刷図には無かった多くのことが可能になってきたことを通して、人間と地図との関わり方が変わった点と変わっていない点、男女差や年齢差による空間認知の違いと共通点などの分析を通して、進化していく地図と人間との関わりの未来を考察した本書は、地図学研究の大きな到達点であり高く評価できる。

教育普及賞:中村和郎 名誉会員(駒澤大学名誉教授)・(一財)地図情報センター
<受賞理由>
『DOOR ドア -208の国と地域がわかる国際理解地図-』 <全5巻> 帝国書院(2018・2019)は、世界208か国の地理情報をすべて見開きで構成し、地図の周囲に国を代表する建造物や風景、動植物などをイラストで描いている。本書を開くことで、楽しく、しかも国の由来や国旗の説明やIOCコード、そして正確な地理情報にも接することができる。地図はすべて等高段彩で表現され、地球上の位置とスケールを付している。ほとんどの漢字にはルビを付しており、子どもから大人まで、さらには日本語を学ぶすべての人びとの優れた教材としても活用可能である。本書のこうした編集方針は、地図やイラストを通して、楽しくその国の地理を知ることに成功しており、高く評価できる。

功 労 賞:赤地祐一 会員、飯田貞夫 会員、井口悦男 会員、岩本廣美 会員、上田秀敏 会員、川久保雄介 会員、田野 宏 会員、前野政克 会員、矢澤利章 会員、余語盛男 会員 (10名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:谷 謙二 氏(埼玉大学)
<受賞理由>
谷 謙二教授は、人文地理学の研究を行うとともに、容易に使用できる地理情報システム(GIS)である「MANDARA」、明治時代以降の多時期の地形図を閲覧できるソフトである「今昔マップ」を開発し、無償で公開してきた。また、これらの改良にも取り組み、バージョンアップを継続的に行っている。1993年にVer.1が公開された「MANDARA」は、地図情報取得から地図作製や属性情報収集、空間分析などを行える汎用GISソフトである。中学校から大学までの地理教育でも多く使用されており、2018年にはVer.10が公開された。時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ」は、2006年に首都圏版から公開が始まり、現在はVer.3.02、対象地域は9地域となっている。2013年には、Web上で動く「今昔マップ on the web」の公開を開始し、地理院地図を効果的に活用して、現在までに32地域の閲覧を可能にした。これらは、地理学・地図学の研究、地理・地図教育、地図の利活用を広く支援するものであり、その取り組みは高く評価できる。

特 別 賞:太田 弘 会員(慶應義塾大学普通部)
<受賞理由>
太田 弘会員は、慶應義塾普通部教諭として日々地理教育の実践にあたるとともに、GISを活用したカリキュラムの開発など、地理教育における地図の重要性を一貫して発信し続けている。幅広い層へ向けた出版物の執筆はもとより、挑戦的なテーマを掲げたイベントを企画・主催するなど、精力的に地図学の普及・啓蒙活動を展開している。その活動範囲は国内のみならず、国外にもおよび、隣接する学術分野、生涯教育そして企業との交流にも積極的である。太田氏は、地図とエンターテイメントとの融合にも果敢に取り組み、日本の地図学界のアウトリーチ活動に大きく貢献している。そうした取り組みは、高く評価できる。

第12回(平成30年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:(該当なし)

論 文 賞:栗栖晋二 会員(東京大学技術専門員)
<論文>
栗栖晋二(2016):東大伊能図の来歴に関する考察(地図,54巻4号,1-16.通巻216号に掲載)【論説】
<受賞理由>
東京大学が所蔵している通称「東大伊能図」について、現存する他の文政4年版中図との記載事項についての比較検討、各機関が所蔵している中図との相互比較、関係者への聴き取り、保存されている帳簿等の読み込みから、戦後から現在に至るまでの東大伊能図に関する経緯を探り、図の来歴にについて考察し、従来の説に対し否定的な結果を得ている。著者は既存地図のデジタルアーカイブ化を行うなかで、そこから引き出せる情報を利用した研究成果を発表してきた。本論文は、日本地図学会において歴代の会員が取り組んできた研究テーマについて、最新の手法や情報を活用して取り組んだ意欲的な成果である。

論文奨励賞:荒堀智彦 会員(首都大学東京大学院)
<論文>
荒堀智彦(2017):インフルエンザ感染症サーベイランスにおける疾病地図の利活用と健康危機管理に向けた課題(地図,55巻2号,1-16.通巻218号に掲載)【論説】
<受賞理由>
インフルエンザ感染症に関する地域サーベイランス(調査監視)として、感染症の予防、診断、感染症発生動向と患者数、治療に関する情報を可視化し提供する「疾病地図」に着目し、日本の各地域のサーベイランスにおける地図表現や、保健所、医師会、自治体による利活用の現状とその効果等について調査を行い、課題について考察している。健康危機管理情報の共有とリスクコミュニケーションのためのツールとして、地図利用の新たな可能性に取り組んだ意欲的な研究である。

作品・出版賞:杉本智彦 氏
<受賞理由>
地図ソフト「カシミール3D」は、1994年にフリーソフトとして発表され、その後の不断の改良により、多機能の地図総合ソフトとして今日に至っている。簡単な操作で鳥瞰図、断面図、可視地図、地名検索を可能とし、特に山岳展望としては他に類をみないソフトである。「カシミール3D」は教育研究分野や趣味分野はもとより、土木建設の実業分野においても不動の存在となっており、2012年には、国土交通省国土地理院による第1回電子国土賞を受賞した。2016年、杉本氏はスマートフォン・タブレット型端末アプリ「スーパー地形」を発表した。このアプリは「カシミール3D」で実現していた地図表示を携帯可能にし、GPSトラックの表示や編集をより身近なものとした。杉本氏の仕事は、「数値地図」や地理院地図の表示にとどまらず、国内外の多様な地理空間情報の可視化とその活用の可能性を拡大させた。よって、杉本氏の貢献は、日本地図学会の作品・出版賞に十分に値する。

教育普及賞:伊藤智章 会員(静岡県立裾野高等学校教諭)
<受賞理由>
高校の地理の教員である伊藤氏は、勤務校に於いてGISを生かした授業実践を多数展開し、GISや地理教育等に関してブログ「いとちり」での長年にわたる情報発信をはじめ、各種論文を多数発表してきた。また、『地図化すると世の中が見えてくる』(ベレ出版、2016年)を上程するなど、教育関係者向けの書籍に留まらず、一般向けの啓発書を発表し、地図の教育・普及に大いに貢献している。

功 労 賞:金子純一 会員、川村博忠 会員、二橋正宏 会員、原 裕子 会員、八木新太郎 会員 (5名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:国土地理院、海上保安庁海洋情報部
<受賞理由>
小笠原諸島の西之島は、2013年の噴火以降新たな陸地の出現等に伴い、面積が約9倍に増大するなど、現況が大幅に変化した。国土地理院と海上保安庁海洋情報部は、2016年10月から2017年1月まで、両機関により島および周辺海域の測量調査を実施し、2017年6月に陸部及び海部の地図をそれぞれ発行した。この一連の西之島の地図作成は、事実上新たに生まれた陸地の地図を、一から測量・図化した近年では稀な地図作成事例であり、本格的な上陸及び周辺海域に立ち入る調査が困難な中で、無人機・無人調査艇をはじめとしたさまざまな新技術を活用したことに加え、地図作成のプロセスについて報道等を通じて広く国民に知らしめ、関心を高めた点において、地図学への多大な貢献を果たした。

特 別 賞:一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)
<受賞理由>
OpenStreetMap(OSM)は、地理情報データを誰でも自由に利用できるよう、一般市民が地理情報データを自ら作成して公開する世界的プロジェクトであり、日本でも市民の地図づくりイベント「マッピングパーティ」が毎週末のように全国各地で展開されている。特に、最近は地域課題の発見(例:バリアフリーの調査など)等とも連携しており、地図づくりが地域づくりに活用される契機となっている。また、災害時に様々な情報を市民ボランティアが地図化するCrisis Mappersにも同コミュニティは積極的に関与しており、市民参加による地図づくりを通じた地図界への貢献は極めて高い。

第11回(平成29年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:西川 治 名誉会員(東京大学名誉教授)
<受賞理由>
日本学術会議会員として「国立地図学博物館」(仮称)設立勧告(1988年)を主導するとともに、「地理情報科学の深化と研究教育組織に関する研究」を進め、勧告の一部を東京大学空間情報科学研究センターの設立として結実させることに貢献した。
<補足説明>
「国立地図学博物館」(仮称)設立の提唱は、大学における地図学の研究・教育体制が極めて不備であること、国内外で毎年生産される各種の地図・画像情報は膨大な量にのぼるが、それらをデータベース化して、広く一般の利用に供する機関が皆無に等しいこと、海外地域情報の蓄積に関しても欧米諸国等に比べて大きな格差があること等を踏まえてのことであった。以下は、東京大学空間情報科学研究センターのホームページから抜粋。

 センター設立の運動は、十数年前に遡りますが、それが顕在化するのは、1988年の日本学術会議第104回総会の決議に基づく勧告、「国立地図学博物館」(仮称)設立の勧告時と言えるでしょう。この勧告の内容は、大きく分けると二つあり、一つは、地図をはじめとする空間情報関連の博物館を設立すること、二つは、地図「学」博物館とあるように、地図に関連する新たな学問(当時の言葉では「新地図学」)を研究する研究機関を設立することでした。
 この勧告の実現を目指し、5年余の間に渡って全国的な運動が展開されました。しかし、当初の勧告通りのセンターを実現するのは極めて難しいという状況に突き当り、運動方針の建て直しをせまられました。そこでセンターの機能を、研究機能を中心とし、博物館機能を切り離したセンターを目指そうという運動の転換がはかられました。この転換時にあたり、勧告にあった「新地図学」は、より高く広い視点から見直しが図られ、「地理情報科学」という新たな学問が提唱されました。この学問を創生し育てるには、センターをどのような研究組織にし、どのような研究をすれば良いのかが大きな課題となりました。幸いにも、(旧)文部省科学研究費補助金(基盤研究(A))を得て、「地理情報科学の深化と研究教育組織に関する研究」(代表:西川治教授)で、これらの課題について3年間(1994-96)に渡り研究が進められました。
 この研究により、センターの研究組織、研究内容が具体化され、センターの設立を実現する大学として、東京大学が適切であるという判断が下されました。これに基づき東京大学にセンターを設立しようという運動が開始されます。まず、1996年「全国地理情報科学研究センター設立準備委員会」、その下部組織である「東京大学地理情報科学研究センター設立準備会」が設立されました。

論 文 賞:太田守重 会員(国際航業(株)フェロー)
<論文>
太田守重(2016):拡張型の一般描画モデルを適用した地理情報表現(地図,54巻2号,1-16.通巻214号に掲載)【論説】
<受賞理由>
同会員による「拡張型の一般描画モデルを適用した地理情報表現」(地図.54巻2号,1-16)は、著者が長年携わってきた地理空間情報のモデル化の考え方を発展させた一般描画モデルを提案し、著者らが開発したGISの一種である支援ツールに実装することで、地理情報標準に準拠した多様な表現が有効に行えることなどを示したものである。抽象的な概念を具体的に視覚化する試みが丁寧に記述され、地理情報表現のモデル化の分野での読者の理解を促す論説として、高く評価できる。

論文奨励賞:(該当なし)

作品・出版賞:大日本印刷株式会社 DNPミュージアムラボ「フランス国立図書館 体感する地球儀・天球儀展」
<受賞理由>
大日本印刷株式会社は、フランス国立図書館(BnF)と共に世界屈指の地球儀・天球儀コレクションの3Dデジタル化に取り組み、この人類の遺産に多くの方に触れていただく機会として優れた展示を開催した。デジタル化により示される新しい視点から、先人たちが見た世界を改めて発見するための画期的な体感型空間を企画・実現・公開した。

教育普及賞:田中隆志 氏(群馬県立桐生女子高等学校教諭)
<受賞理由>
高校の地理の教員である田中氏は、勤務校において地図を生かした授業実践を多数展開し、実践記録や授業にすぐ使える授業コンテンツなどをホームページ「GEOLINK(ジオリンク)」で発信してきた。また、「学校現場における地図・GISの活用事例と課題」(『地図』54巻3号)など、地図教育の実践に基づく研究論文を多数発表している。さらに、群馬県地理教育研究会の事務局や全国地理教育研究大会実行委員会の事務局を担当するなど、地図の教育・普及に大いに貢献している。

功 労 賞:阿部国広 会員、田仲順一 会員、永井信夫 会員、古内敦子 会員、細谷正策 会員、真山 崇 会員 (6名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:小林瑞穂 会員(明治大学講師・非)
<受賞理由>
小林会員は日本海軍水路部創設以来の水路業務に強い関心を持ち、一貫して水路部研究を続け、これまでも多数の研究論文を公表してきたが、2015年12月に研究成果を集大成した大著『戦間期における日本海軍水路部の研究』(校倉書房、470頁)を上梓した。本書は、他に類する学術研究書は極めて乏しく、今後、海図を主とする水路図誌、航空図に関する従来の地図史、技術史研究をさらに深め、発展させる貴重な基礎文献として大きく貢献するものであり、高く評価できる。

第10回(平成28年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:三浦公亮 会員(東京大学名誉教授)
<受賞理由>
宇宙構造物と地図という異なる分野を貫く着想により、優れた地図の折り方であるミウラ折りを発明した。
<ミウラ折りについて>
航空宇宙工学者である三浦会員は、人工衛星装置の開発研究の中で、1970年、簡素な構造でありながら、小さく折りたたんだパネルの一端を引くだけで全体を一気に展開でき、逆向きに動かせば一気に折りたためる方法を考案し、折り紙でその成果の模型を作成して示した。この紙の折り方は、広げて使う紙の地図の折りたたみ方としても大変優れたものであり、日本国際地図学会(現在の日本地図学会)や国際地図学会議(ICC東京、1980年)などで発表され、ミウラ折り(miura-ori)と呼ばれて世界に知られるようになった。今日までにミウラ折りの地図製品が多数作成されているほか、その技術はさまざまな分野に応用されている。また日本の伝統文化である折り紙に通じることから、2006年には「新日本様式」100選にも選定されている。

論 文 賞:西尾良司 会員
<論文>
西尾良司(2015):地下上申宇佐村絵図の作図技術の分析(地図,53巻1号,1-16.通巻208号に掲載)【論説】
<受賞理由>
同会員による「地下上申宇佐村絵図の作図技術の分析」(地図.53巻1号,1-16)は、著者が独自に考案した手法を用いて、現地調査の成果をもとに江戸時代の絵図と国土地理院の数値地図との標定を実施し、絵図の精度と作成手法を推定した労作であり、高く評価できる。

論文奨励賞:(該当なし)

作品・出版賞:衿沢世衣子 氏(漫画家)
<受賞理由>
衿沢世衣子氏が描く『ちづかマップ』(小学館フラワーコミックス)は、主人公の女子高生「ちづか」が地図を活用してさまざまな場所を訪れ、さまざまな経験をする1話完結形式のコミックである。少女漫画誌の連載をもとに、2012年に第1巻、2013年に第2巻、2015年8月に第3巻が刊行された。高校生の日常を舞台として、主人公は東京や関西などのいくつかの地域を訪れ、歴史のある店でおいしい食べ物を手に入れたりするが、単なる名所の解説やうまいもの巡りではなく、江戸切絵図をはじめとする古地図、地形図、旧版地形図、吉田初三郎の鳥瞰図、東京時層地図(スマートフォンのアプリ)など、必ず地図を持って行動し、それにより思わぬ発見をし、思わぬ出会いがあるというストーリーである。各話には正確な地図が添えられ、主人公が訪問した場所を読者が訪問することができるようにされている。漫画という親しみやすい方法により、地図を使う楽しさと、地域の歴史や文化に気づく「街歩き」に適切な地図が不可欠であることを示し、多様な年齢層に地図活用を促した点で高く評価できる。

教育普及賞:畔田豊年 会員(兵庫県立龍野高校)
<受賞理由>
高校の地理の教員である畔田会員は、長年にわたり、地図・GISを効果的に用いた教材の開発に取り組むとともに、地図・GISを的確に活用した授業を実践してきた。特に、開発した教材や授業実践事例を早くからウェブサイトで積極的に公開し、多くの教員がそれらを参考にすることを可能とするなど、教育分野に大きく貢献している。

功 労 賞:青木孝豪 会員、五十嵐一馬 会員、伊藤英樹 会員、太田晴子 会員、小倉知治 会員、谷岡誠一 会員、西沢邦和 会員、野田多久造 会員、芳賀 啓 会員、松島孝一 会員、見上洋一 会員 (11名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:今村遼平 会員
<受賞理由>
今村会員は、長年、中国の測量・地図史の研究を行っている。2015年1月には、中国測絵学会が1989年から10年の歳月をかけ総力を挙げてまとめ上げた『中国測絵史』全3巻のうち、中国が世界の最先端を歩んでいた清代までの部分の膨大な翻訳を成し遂げ、700ページに及ぶ『中国地図測量史』として公開した。わが国では、これまで、西欧の地図測量史に比べ中国の地図測量史に関する研究成果は乏しく、この翻訳は西欧・中国・日本の地図測量史・地図学史を多面的に比較研究するうえで大きなよりどころとなるものであり、高く評価できる。

特 別 賞:東京カートグラフィック株式会社(特別会員)
<受賞理由>
同社は、地図を素材としたさまざまな地図商品を作成・販売している。そのラインナップは、ハンカチや手ぬぐい、文房具、ペーパークラフト地球儀などバラエティに富み、従来の地図ユーザーのみならず多くの人々に地図の楽しさを周知・普及することに貢献してきた点で評価される。とりわけ「Geological Textile」シリーズは、専門性の高さゆえ一般の人の目に触れる機会が少なかった地質図を、その配色の美しさと自然が生み出す複雑な模様を活かしてテキスタイルデザインのモチーフとする画期的なアイディアであり、デザイン素材としての地図の可能性を示した点でも高く評価できる。

第9回(平成27年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

野村正七地図賞:金窪敏知 名誉会員
<受賞理由>
日本を代表する地図学者であり、代表的な著書「現代理論地図学の発達」(1991年)や訳書「メタ地図学-基本的課題」(A.F. アスラニカシュヴィリ著、1998年訳)などを通じて、理論地図学の分野を中心に傑出した研究業績を挙げた。この分野においては、1985年本学会内に地図学の理論的研究が必要であるとの機運が高まり、新たに設置された「地図言語専門部会」主査として活発な研究活動を開始するとともに、国際地図学協会(ICA)において「地図学における概念委員会」委員長、「地図学における主要理論的課題特定作業部会」委員長、「地図学における理論的分野と定義に関する委員会」委員長及びICA副会長(1991年~1999年)として当該分野の振興に務めるなど、世界的にも指導的役割を果たしてきた。また、陸地測量部から地理調査所(現国土地理院)への改組に関わる渡辺正氏の活動や記録を発掘し、その意義を示すなど、日本の地図史解明についても大きく貢献している。

論 文 賞:神谷泉 会員
<論文>
神谷泉(2014):面積と角のバランスを考慮した「最適全球図法」の開発(地図,52巻2号,35-46.通巻205号に掲載)【論説】
<受賞理由>
同会員による『面積と角のバランスを考慮した「最適全球図法」の開発』(地図.52(2):35-46)は、既存の投影法の発想にこだわらずに、全球地図の投影に関する多くのパラメーターの組み合わせと歪みとの関係を考察したもので、投影法の研究・開発に新しい視点を提起した点で高く評価できる。

論文奨励賞:(該当なし)

作品・出版賞:株式会社東京地図研究社 ※特別会員
<受賞理由>
同社の2014年の著作物『地形のヒミツが見えてくる 体感! 東京凸凹地図 (ビジュアルはてなマップ) 』(技術評論社刊)は、2005年の『地べたで再発見!「東京」の凸凹地図』の新版であるが、同社はデジタル手法の陰影図による地形の立体表現にいち早く注目し、優れた企画と懇切な編集によるこれらの出版物により、地形とその地図表現に対する社会的関心を高めた。江戸東京の地形と歴史に関する図書の刊行、「東京スリバチ学会」「名古屋スリバチ学会」など都市の地形観察を目的とする活動、『ブラタモリ』など地図・地形散策をテーマとしたテレビ番組の興隆など、大都市地形を再認識するムーブメントの原点となった点で、同社の活動は高く評価できる。

教育普及賞:土方美和子 様(多摩市立永山中学校)・原島久男 様(稲城市学校経営支援室)
<受賞理由>
1997年以来毎年実施されている「多摩市身のまわりの環境地図作品展」において、その運営を中心的に担い、地図教育・環境教育に大きく貢献した。

功 労 賞:安齋鉄夫 会員、筏 隆臣 会員、大塚一雄 会員、大橋康二 会員、大堀和利 会員、亀井秀也 会員、郷田 巌 会員、小林和夫 会員、内藤ふみ 会員、長岡正利 会員、橋詰直道 会員、星 源嗣 会員、吉岡 壯 会員 (13名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:国土地理院
<受賞理由>
同院は、本格的なデジタル地図情報提供サイト「電子国土Web」をGoogle Mapsに先駆けて2003年に公開、以後改良を重ね、ネットワークによる情報提供時代にふさわしく、各種の地図・空中写真情報を公開してきた。2013年10月からは「地理院地図」という名称で、国土地理院の各種の情報がより幅広く利用できるようになった。2014年3月には地理院地図3Dを公開し、政府の災害対応でも活用が開始された。2014年8月にはベクトルタイル提供実験を開始し、2014年12月にはベクトルタイルデータを活用した触地図試作ページを公開した。さらに2015年1月にはモバイル端末でも快適に利用できるようリニューアルされるなど、進化を続けている。「地理院地図」は技術的に優れたものであるだけでなく、積極的な情報公開の理念や防災分野への応用等から、社会的にも注目すべき存在となっている。このような「地理院地図」を開発・運営している国土地理院は、地図の普及・発展への貢献の点で特別賞にふさわしいと認められる。

第8回(平成26年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:井田浩三 会員
<論文>
井田浩三(2013):鷹見泉石「新訳和蘭国全図」原図の考察(地図,51巻1号,2-15.通巻200号に掲載)【論説】
<受賞理由>
同会員による『鷹見泉石「新訳和蘭国全図」原図の考察』(地図51(1):2-15)は、ヨーロッパ諸国の図書館や古書店を探索のうえ入手した複数の古地図をデジタル化し、GIS技術等を活用してその記載内容を比較分析することで、江戸時代末期に日本で作成されたオランダの地図のルーツを解明したものである。緻密な比較分析は古地図研究の模範となるものであり、かつ現代の技術を活用することにより新たな可能性を示したものとして、高く評価される。

論文奨励賞:梶山貴弘 会員(日本大学大学院)
<論文>
梶山貴弘・藁谷哲也(2013):衛星画像及びDEMを用いたカラコルム山脈フンザ川流域の氷河台帳と氷河分布図(地図,51巻3号,1-16.通巻202号に掲載)【論説】
<受賞理由>
同会員と藁谷哲也会員との共著論文『衛星画像及びDEMを用いたカラコルム山脈フンザ川流域の氷河台帳と氷河分布図』(地図51(3):1-16)は、衛星画像やDEMを用いて新たな氷河台帳・氷河分布図を作成し、新旧の台帳を比較することで地球環境の変遷に関わる重要な成果を得たもので、地図の有効性を示した優れた論文である。

作 品 賞:(一財)日本地図センター ※特別会員
<受賞理由>
同センターが開発し販売している『時層地図』シリーズは、携帯端末で旧版地図を現地と照合しながら閲覧できるようにしたもので、iPhone版の「東京時層地図」と「横濱時層地図」に加え、このほどiPad専用地図アプリも公開された。これには2画面表示、ブックマーク機能(SNS対応)、ヘディングアップ表示、地名検索等の機能が追加され、東京・横浜の明治・大正・昭和・平成の地図を自在に組み合わせ、切り換えて閲覧することができる。印刷地図・デジタル技術・衛星測位技術の融合により、街歩き等で旧版地図を手軽に閲覧できるようにした功績は大きい。

教育普及賞:加藤博美 様 (仙台市立蒲町中学校教諭)
<受賞理由>
高校の地理の教員である小山氏は、勤務校のる生徒を指導して積極的に地域調査を通じた地理教育を実践するなどしてきた。鳥取県児童生徒地域地図作品展には、これまで同氏が指導する生徒が多数入賞しているほか、同氏自身もその運営に携わってきた。これらの実践は地図の教育・普及に大いに貢献するものであり、教育普及賞にふさわしいと認められる。

功 労 賞:伊藤安男 会員、内山幸久 会員、大久保賢一 会員、金坂清則 会員、滝沢由美子 会員、田中正治 会員、中川 重 会員、橋本範文 会員、星埜 由尚 会員 (9名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

第7回(平成25年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:政春尋志 会員(国土地理院)
<論文>
政春尋志(2011):日本の地形図等に用いられた多面体図法の投影原理(地図,49巻2号,1-7.通巻193号に掲載)【論説】
<受賞理由>
同会員による「日本の地形図等に用いられた多面体図法の投影原理」(地図49(2):1-7)は、陸地測量部の原典にあたり、これまで説明が混乱していた多面体図法の実態を解明したものである。UTM図法導入以前に地形図に用いられていた多面体図法の記録という点において、また地形図の歴史の解明という点において、重要な貢献をなす文献であり、高く評価される。

論文奨励賞:(該当なし)

作 品 賞:織田雅己 会員(地図工房トンビの目)
<受賞理由>
同会員が作成しているパノラマ地図シリーズは、広範囲の地形を独特の雰囲気のある絵柄で表現する鳥瞰図である。「ぐるり紀伊近畿360°」という作品は、360°を見回す点に他にはないユニークさがあり、国際地図学会議(ICC)2011(パリ)の国際地図展において「その他の紙地図」部門の1位を得た。このように、同氏の作品は国内はもとより国際的にも高く評価されている。

教育普及賞:小山富見男 氏(鳥取敬愛高校長)
<受賞理由>
高校の地理の教員である小山氏は、勤務校のる生徒を指導して積極的に地域調査を通じた地理教育を実践するなどしてきた。鳥取県児童生徒地域地図作品展には、これまで同氏が指導する生徒が多数入賞しているほか、同氏自身もその運営に携わってきた。これらの実践は地図の教育・普及に大いに貢献するものであり、教育普及賞にふさわしいと認められる。

功 労 賞:池田稔 会員、磯部邦昭 会員、宇田川政彦 会員、加藤徹 会員、神嶋利夫 会員、蒲生正久 会員、久保田武 会員、栗田好明 会員、小林茂 会員、柴原俊昭 会員、高木正博 会員、田中總太郎 会員、田村勝正 会員、和田賢次 会員 (14名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

第6回(平成24年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:目代邦康 会員(自然保護助成基金)・小荒井衛 会員(国土地理院)
<論文>
目代邦康・小荒井衛(2011):日本におけるジオパーク活動の展開と地図の活用(地図,49巻3号,3-16.通巻194号に掲載)【総説】
<受賞理由>
両会員共著の「日本におけるジオパーク活動の展開と地図の活用」(地図49巻3号掲載)は、日本のジオパークにおける地図利用の実態に基づき、ジオツーリズムにおける地図の役割と問題点を総括したものである。近年高い関心を呼んでいるジオツーリズムを、その重要な要素である地図の視点から論じており、高く評価される。

論文奨励賞:河本大地 会員(神戸夙川学院大学)
<論文>
河本大地(2011):世界ジオパーク・日本ジオパークのウェブサイトにおける地図情報発信の特徴(地図,49巻3号,46-53.通巻194号に掲載)【短報】
<受賞理由>
同会員著の「世界ジオパーク・日本ジオパークのウェブサイトにおける地図情報発信の特徴(地図49巻3号掲載)は、日本を含む世界各地のジオパークがウェブサイトでどのような地図情報を発信しているかを調査・分析したものである。ウェブサイトの地図に意欲的に切り込んだだけでなく、教育面などにも言及しており、優れた論文である。

作 品 賞:政春尋志 会員(国土地理院)
<受賞理由>
同会員の著書『地図投影法』(朝倉書店)は、地図の基本として重要であるにもかかわらず必ずしも十分に理解されているとはいえない地図投影法を正面から取り上げた書物である。地図投影法に関する本格的な書籍の発刊は、野村正七元会長(故人)の著書以来28年ぶりとなる。コンピューターで地図データを処理することが普通となった現代に合わせた内容になっており、高く評価される。

作 品 賞:(株)昭文社(特別会員)
<受賞理由>
昭文社が発行した『東日本大震災復興支援地図』は、東日本大震災で大きな津波の被害を受けた太平洋岸の地域を対象に、浸水地域、避難所、交通機関の状況などを表した地図帳である。6月発行という迅速さと、採算を無視した税込み1,000円という価格は、民間地図会社の力と姿勢を示した好例として高く評価される。

教育普及賞:小林岳人 氏(千葉県立松戸国際高校)
<受賞理由>
公立高校の地理の教員である小林氏は、地域や多様な生徒の実態に即し、自らさまざまな地図を工夫して、授業や学校行事等の教材として用いている。また、そのような授業実践を本学会大会などで積極的に報告している。これらのことから、同会員は教育普及賞にふさわしいと認められる。

功 労 賞:稲田克二 会員、黒川史朗 会員、小谷毎彦 会員、柴原充 会員、鈴木義宜 会員、手塚章 会員、長井俊夫 会員、菱山剛秀 会員、降旗宗雄 会員、丸山隆雄 会員、村田義嗣 会員、八島邦夫 会員,吉村光敏 会員 (13名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

特 別 賞:(株)ゼンリン
<受賞理由>
ゼンリンは、東日本大震災に際して、社員が避難所等に出向いて拡大した住宅地図を無償で掲示するなどして、安否確認や避難所生活の改善に大きく役立つ行動を積極的に行った。被災地における地図の重要性をよく認識した行動として賞賛に値する。

第5回(平成23年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:小荒井衛 会員(国土地理院)・佐藤 浩 会員(国土地理院)・中埜貴元 会員(国土地理院)
<論文>
小荒井衛・佐藤 浩・中埜貴元(2010):航空レーザ測量による植生三次元構造を反映した植生図の作成(地図,48巻3号,34-46.通巻190号に掲載)【論説】
<受賞理由>
上記三会員共著の論説「航空レーザ測量による植生三次元構造を反映した植生図の作成」(「地図」48巻3号掲載)は、航空レーザ測量データにより、植生の三次元構造を捉えて植生図として表現する手法を開発しようとしたものである。詳細な地形データだけではなく、植生をはじめとするさまざまな環境指標の図化に応用することが期待されている航空レーザ測量の可能性を具体的に示したことは、高く評価される。

論文奨励賞:(該当なし)

作 品 賞:田邉 裕 会員(元 帝京大)・谷治正孝 会員(元 帝京大)・滝沢由美子 会員(帝京大)
<受賞理由>
帝京大学地名研究会(上記三会員と渡辺浩平氏(帝京大))による「地名の発生と機能-日本海地名の研究-」(2010)は、16世紀から19世紀までの世界地図や日本周辺の地図約50点を時系列順に掲載するとともに、これらの地図学的・地名学的な分析により日本海地名の定着過程を明らかにした著作物である。丹念な古地図収集と先入観を排除した考察により、日本海地名問題に学術的な観点で一つの結論を導いたものであり、高く評価される。

教育普及賞:森 泰三 氏(岡山県立岡山一宮高教諭)
<受賞理由>
森氏は、高等学校の地理の授業において、地図・地理情報システムの活用を積極的に図ってきた。また、地域地理科学会の年次大会の一環として行われる高校生によるポスター発表において、同氏の指導により、勤務校の生徒が地図や地理情報システムを用いて行った研究を多数発表している。これらのことから、同氏は教育普及賞にふさわしいと認められる。

功 労 賞:阿部三樹 会員、梶田一雄 会員、久木田順一 会員、佐野 充 会員、田代 博 会員、常住春夫 会員、藤井英行 会員、藤本一美 会員、藤原 茂 会員、山崎正躬 会員、山田 誠 会員、横川 孝 会員、寄藤 昂 会員 (13名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

第4回(平成22年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:石田恵一 会員(AIGコーポレート・ソリューションズ(株)・森田喬 会員(法政大学)
<論文>
石田恵一・森田喬(2009):イメージマップおよび視覚的データ分析による街路イメージの日仏比較(地図,47巻1号,12-26.通巻184号に掲載)【原著論文】
<受賞理由>
両会員共著の原著論文「イメージマップおよび視覚的データ分析による街路イメージの日仏比較」(「地図」47巻1号掲載)は、街路を事例として、建築・都市計画学の手法を取り入れ、日仏で調査を行った研究論文である。空間イメージに関するデータを分析し、日仏で空間がそれぞれどのように認知されているかを明らかにしたものであり、地図表現の研究に新しい視点を提示した論文として高く評価される。

論文奨励賞:渡邉英明 会員(大阪大学大学院生)
<論文>
渡邉英明(2009):近世在方町における絵図作成の特色 -武州小川を事例として-(地図,47巻2号,1-16.通巻185号に掲載)【原著論文】
<受賞理由>
同会員の単著論文「近世在方町における絵図作成の特色 -武州小川を事例として-」(「地図」、47巻2号掲載)は、近世在方町の絵図の特色について多くの史料に基づいてていねいに論じたものである。古地図研究としても郷土研究としても手本となるような内容であり、高く評価される。

作 品 賞:島方洸一 会員・立石友男 会員・井村博宣 会員(日本大学)
<受賞理由>
島方会員が企画・編集統括し、立石・井村両会員が編集委員となって作成された『地図で見る西日本の古代』(2009年、平凡社刊行)は、明治期の5万分の1地形図上に古代の都城、街道、条理などを示した一種の地図帳である。忍耐強い作業により、地図という表現様式を活用して古代の国土の姿を正確に復元した労作であり、地理学的にも歴史学的にも貴重な学術資料として高く評価される。

教育普及賞:埼玉県立文書館地図センター
<受賞理由>
同センターは、地図に関する知識や活動方法等の啓発、普及を行うために設置されたもので、1993年以来、年2回以上の地図教室を開催し、読図と野外観察を組み合わせた生涯学習事業を実施している。2002年以降は、年2回のうち大人向けと子供向けをそれぞれ1回ずつ開催している。これまで受講者延べ人数は600人以上となっている。こうした取り組みは、地図の教育普及事業として高く評価される。

功 労 賞:飯村義雄 会員、伊東重光 会員、伊藤 等 会員、齊藤忠光 会員、相模 裕 会員、坂本信生 会員、坂本睦士 会員、田林 明 会員、中川 章 会員、長瀬 信 会員、二瓶直子 会員、保谷忠男 会員、堀野正勝 会員、山口雅功 会員、山本 晃 会員 (15名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

島方洸一 会員(日本大学)
<受賞理由>
日本大学文理学部では、2004年に「伊能忠敬の日本図展」を開催したのをはじめとして、これまで毎年、地図に関する展示を行っている。この地図展は、江戸・東京やシルクロードなどを対象としたものを中心とし、空襲や災害をテーマに取り上げるなど、ユニークな企画のもとに開催されてきた。島方会員は、学部長・教授としてこれらの地図展の開催を一貫して強力に推進し、わが国の地図学の進歩に大きく貢献した。

特 別 賞:外邦図研究グループ(代表 小林 茂会員(大阪大学))
<受賞理由>
外邦図研究グループは、貴重な学術資料である外邦図について、地図学的・地理学的な研究を行うだけでなく、それを集成し、デジタルアーカイブ化を進めてその公開を図ってきた。2008年には日本国際地図学会定期大会でシンポジウム「外邦図の集成と多面的活用-アジア太平洋地域の地理情報の応用をめざして-」を開催するとともに、機関誌「地図」に宮澤 仁・照内弘通・山本健太・関根良平・小林 茂・村山良之を著者とする「外邦図デジタルアーカイブの構築と公開・運用上の諸問題」を著し、活動の意義や成果を明らかにしている。さらに2009年には、小林茂会員を編者とする『近代日本の地図作製とアジア太平洋地域』(大阪大学出版会)を刊行し、アジア太平洋地域の国際的な視点も含めた研究成果を明らかにした。この一連の活動は、日本の地図史料の保存と活用、地図文化の継承を図り、地図学の発展に大きく貢献するものであると認められる。

第3回(平成21年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:川村博忠 会員(元山口大学)
<論文>
川村博忠(2008):正保日本図と北条氏長の作図技術に関する若干の考察」(地図,46巻4号,11-26.通巻183号に掲載)【原著論文】
<受賞理由>
同会員共著の原著論文「正保日本図と北条氏長の作図技術に関する若干の考察」(「地図」46巻4号掲載)は、これまで多くの研究課題が残されていた正保日本図に関し、現存する図の作製時期、再製図の作図技術などについて著者なりの結論を呈示しているもので、今後の正保日本図研究の足がかりとなる論文として高く評価される。

論文奨励賞:林紀代美 会員(金沢大学)
<論文>
林紀代美(2008):お絵描き地図の魅力と可能性-まずは楽しく描いてみよう,出かけてみよう!-」(地図,46巻2号,11-18.通巻181号に掲載)【報告】
<受賞理由>
「はやしきよみ」名で発表された同会員の単著論文「お絵描き地図の魅力と可能性-まずは楽しく描いてみよう,出かけてみよう!-」(「地図」,46巻2号掲載)は、「お絵描き地図」作家としての経験談と、それに裏打ちされた地図教育の方法を論じたもので、地図普及にとって多くの示唆を含む点で高く評価される。

作 品 賞:今尾恵介 会員
<受賞理由>
同会員が企画に参画し、監修した「日本鉄道旅行地図帳」(全12巻、2008年~、新潮社刊行)は、従来のこの種の出版物とは異なり、正確な地図を掲載しその重要性が示されたことが話題となったほか、鳥瞰図など工夫された地図表現も用いていること、鉄道の改廃等について詳しい情報が示されていることなど、地図作品として、また学術資料として高く評価される。

教育普及賞:菊池洋子 氏(藤沢市教育文化センター)
<受賞理由>
同氏は中学校国語科の教員であったが、2004年度に藤沢市教育文化センターに着任、2005年度から同市社会科研究部会によるGISを用いた授業研究の運営に力を注いだ。特に市内の小中学校のパソコンへの教育用GIS導入や市のDMデータの学校への無償提供に尽力し、3カ年で小中学校の1800台のパソコンにGISソフトが搭載されるようになった。このGISは社会科のみならず、総合的な学習の時間などでも活用され、2007年には実践事例をまとめた報告書「新しい地域学習~市民性の育成~」が作成されている。藤沢市のこの取り組みは公教育におけるGIS活用の先進事例として知られており、高く評価される。

功 労 賞:青木英一 会員、青木栄一 会員、赤桐毅一 会員、畦地稔生 会員、足立卓三 会員、安仁屋政武 会員、池田晶一 会員、石高信雄 会員、石原一郎 会員、石原 侑 会員、市川清次 会員、乾 満夫 会員、今村久夫 会員、井元敏男 会員、大友 篤 会員、茅原 弘 会員、喜多昭一 会員、北尾日出彦 会員、小疇 尚 会員、後藤良一 会員、笹木義友 会員、式 正英 会員、實 清隆 会員、鈴木美奈男 会員、田中義治 会員、谷井文夫 会員、千歳壽一 会員、鶴見英策 会員、名草 弘 会員、西村弘人 会員、新田純弘 会員、韮沢庸昭 会員、野上純與 会員、野上道男 会員、野々村邦夫 会員、坂野祐弘 会員、檜谷哲夫 会員、平井 雄 会員、藤井宏志 会員、細井将右 会員、堀 信行 会員、堀口萬吉 会員、正木英雄 会員、松村祝男 会員、水田義一 会員、宮内 守 会員、宮林 優 会員、村田孝一 会員、森田 豊 会員、谷治正孝 会員、吉田榮夫 会員、和田昌昭 会員 (52名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

(株)ゼンリン(特別会員)
<受賞理由>
2008年10月11日~12日に北九州市で開催された第42回地方大会について特段の支援を行うなど、本学会の活動に貢献した。

第2回(平成20年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:村越 真 会員(静岡大学)・小山真人 会員(静岡大学)
<論文>
村越 真・小山真人(2007):火山ハザードマップの読み取りに対するドリルマップ提示の効果(地図,45巻4号,1-11.通巻179号に掲載)【原著論文】
<受賞理由>
両会員の共著論文「火山ハザードマップの読み取りに対するドリルマップ提示の効果」(「地図」45巻4号掲載)は、専門家意外にはわかりにくいとされる主題図の普及策という、これまで問題視されながらも研究が立ち後れていた課題に取り組み、新しい研究分野を拓いた論文として高く評価される。

論文奨励賞:佐藤崇徳 会員(沼津工業高等専門学校)
<論文>
佐藤崇徳・後藤秀昭(2007):アナグリフによる地形実体視と地理教育での利用(地図,45巻1号,19-26.通巻176号に掲載)【報告】
<受賞理由>
同会員が筆頭著者となっている論文「アナグリフによる地形実体視と地理教育での利用」(「地図」、45巻1号掲載)は、教育現場での実践に基づき「実体視」の効果を説き、実用性の高い教育手法を示した点で高く評価される。

作 品 賞:渡辺一郎 会員(伊能忠敬研究会) ・ (財)日本地図センター(特別会員)
<受賞理由>
渡辺会員が監修し、日本地図センターが編集して2006年12月に刊行された「伊能大図総覧」は、海外で繰り返し調査を行うなどして発掘した伊能大図のすべてをそろえ、精緻な印刷で複製したもので、学術資料としてきわめて大きな価値がある。高価であるにもかかわらず予定の300部が完売となったことも評価の高さの現れである。

教育普及賞:大野新 氏(筑波大附属駒場中・高教諭)
<受賞理由>
10年以上にわたり、地形図学習から環境地図作成までを体系的にカリキュラムの中に取り入れ、生徒の環境地図の作品多数を毎年「私たちの身のまわりの環境地図作品展」に応募するように指導するなど、地図教育の実践に取り組み、大きな成果を上げている。

功 労 賞:浅場 清 会員、岩田順正 会員、櫻井正美 会員、鈴木純子 会員、田中康夫 会員、田村正明 会員、矢ヶ崎孝雄 会員 (7名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

第1回(平成19年度) -受賞者の所属は、受賞当時のもの-

論 文 賞:川名 禎 会員 (國學院大学(非))
<論文>
川名 禎(2006):二王座村絵図にみる臼杵城下の景観と地域構成(地図,44巻3号,1-18.通巻174号に掲載)【原著論文】
<受賞理由>
同会員の単著論文「二王座村絵図にみる臼杵城下の景観と地域構成」(「地図」44巻3号掲載)は、近世の村絵図を詳細に分析し、当時の地域構成や景観について歴史地理学的に論じた優れた論文である。

論文奨励賞:渡辺理絵 会員 (茨城大学(非))
<論文>
渡辺理絵・小林 茂(2004):日本-中国間の地図作製技術の移転に関連する資料について(地図,42巻3号,13-28.通巻166号に掲載)【資料】
<受賞理由>
同会員が筆頭著者となっている論文「日本-中国間の地図作製技術の移転に関連する資料について」(「地図42巻3号」掲載)は、明治期の日本による清国の測量・地図作成技術者養成について資料を発掘し、多くの事実を明らかにしたものである。

作 品 賞:特別会員 (株)昭文社
<受賞理由>
同社発行の「帰宅支援マップ」シリーズは、大地震時に誰もが帰宅困難者となる可能性と、その場合の帰宅ルートの情報の必要性を示すもので、地図制作者の立場から社会に広く警鐘を鳴らすとともに、地図の重要性を広く認識させるものとなった。

教育普及賞:小野寺徹 会員 (北海道滝川高校)
<受賞理由>
毎年旭川で行われ、世界的規模の地図作品展となっている「私たちの身のまわりの環境地図作品展」の実行委員長を長く務めるとともに、内外の教育関係者が利用している「環境地図づくりマニュアル」を執筆編集した。また、勤務校においても地理教育、地図教育に力を注ぎ、毎年勤務校から上記地図作品展に多数の応募がある。

功 労 賞:赤見高好 会員、浅海重夫 会員、跡部 治 会員、阿部正道 会員、五百沢智也 会員、五十嵐勇作 会員、池田 碩 会員、石黒義三 会員、石山洋 会員、今井健三 会員、岩佐武彦 会員、岩戸榮 会員、内田 実 会員、大澤貞一郎 会員、大嶋太市 会員、大竹一彦 会員、大竹俊紀 会員、上西時彦 会員、河本哲三 会員、高地伸和 会員、小崎修司 会員、坂上由一 会員、佐藤 久 会員、鈴木美和子 会員、須原芙士雄 会員、瀬戸玲子 会員、高橋堅造 会員、高橋 仁 会員、髙橋 正 会員、高村弘毅 会員、田中完一 会員、田邉 裕 会員、中條久雄 会員、角田新之助 会員、手塚博禮 会員、富樫慶夫 会員、永田文夫 会員、中村静夫 会員、中村六郎 会員、成沢竹次 会員、野川 潔 会員、橋本良一 会員、原田 肇 会員、樋口米蔵 会員、平野利子 会員、星野 朗 会員、堀 淳一 会員、馬籠弘志 会員、松岡 洋 会員、松田博幸 会員、三浦 肇 会員、水越允治 会員、村上一幸 会員、村松吉雄 会員、森規矩雄 会員、山口 學 会員(56名)
<受賞理由> 長期にわたり、会員として日本国際地図学会の活動に貢献された。

© Japan Cartographers Association.